下部消化管班

下部消化管班

消化器外科 下部消化管班の特徴

我々の診療班の特徴を記載します。当院での治療をご希望なさる場合やご相談を希望される場合には、ご遠慮なくご相談、ご受診ください。

我々の診療目標: 

 全ての患者様に手術療法等を通じて患者様にとって最適な治療を提供する

1.大腸癌、悪性疾患の治療

○患者様にとって最適な手術療法、治療を提供する

大腸癌では多くの患者様で手術療法が選択されます。当科では低侵襲手術である腹腔鏡手術、ロボット手術の施行率は95%を超えています。一方、病気の進行度や体力的な問題などで手術が施行できない場合でも、放射線治療やステント治療などで生活の質を保つことを目標とします。

○標準化学療法(薬物療法)

標準化学療法とは“並”ではなく、現時点で患者様に提供できる“最善の”抗がん剤治療のことです。大腸癌治療ガイドラインに準じて、最善の化学療法を患者様に提供します。

○ステージ4進行癌の治療

大腸癌と診断された時点ですでにステージ4で、根治治療はできない・難しいと判断されたとしても、最近の化学療法(薬物療法)や放射線療法の進歩により、生活の質を保ちながら長期にわたりがんと共存できる場合があります。中には切除可能となり手術を行うことで、がんが治ってしまう場合もあります。やれるだけの治療は試みます。

NEW ○手術をしないで直腸癌を治す?

直腸癌に対しての治療は、人工肛門が必要になったり、他の部位の大腸癌より再発率が高率であったり、患者さんへの負担が大きいことが問題です。近年、直腸癌に対して、手術前に放射線治療を施行することで骨盤内再発率を低下させることがわかってきましたが、さらに、オキサリプラチンと5FU系などの抗癌剤を投与すると2-3割の患者さんで手術をしなくても癌が消失することが欧米の成績からわかってきました。その治療方針をTNT(total neoadjuvant therapy)と言います。TNTの日本人での有効性、安全性については現在JCOG(下部消化管班について 参照)などで臨床試験が行われておりますが、ご希望の患者様にはこの治療についてご説明させていただき、臨床試験への登録や、実際にTNTの治療を行うことを検討させていただきます。

 TNTの最大の利点は人工肛門が必要になったり、自然肛門を温存することが可能であっても機能低下は避けることができない手術療法を行わなくても、直腸癌が治る可能性があると言うことです。一方TNTで癌が消失しない患者さんは従来の手術を受けていただかないと癌を直すことはできません。またTNT後に手術となると、治療期間も長くなり、治療費も手術のみと比べると高くなります。

 この様な長所、短所をご理解いただいた上でTNTの治療を受けていただくことになります。

○肛門に近い進行直腸癌の治療

肛門に近い進行直腸癌でも肛門温存術をご希望される患者様には、放射線療法や化学療法を併用して可能な限り肛門温存術を提供しております。写真左は肛門温存はできないと他院で説明されたが肛門温存術を希望して受診した患者様で、肛門部に及ぶ進行直腸癌を認めました。このままでは温存術はがんを取り残す可能性が高いと考え、まず放射線化学療法を施行後に写真右のように腫瘍が縮小してがんを取り残す可能性が低くなったことを確認し、肛門温存術を施行しております。この患者様は、長期無再発です。

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○肝転移、肺転移の治療

肝転移、肺転移は切除できれば治る可能性が出てきます。積極的に手術療法を行っています。また、個数が多かったり、大きかったりして切除不可と言われた患者様でも、化学療法を行うことで切除可能になることがあります。

○骨盤内再発の手術治療(写真参照)

直腸癌術後の骨盤内再発の治療は、施設間差が一番出ます。当科では骨盤内再発の手術治療に十分に経験のある大腸外科医が中心になり専門チームで骨盤内再発の手術治療を対応しております。がん専門病院でも切除ができないと言われた患者様でも切除可能と判断できる場合があり、神奈川県内外からご紹介があります。肉体的負担は大きいですが、治る可能性が一番高いの拡大手術です。

○リンパ節再発、腹腔内再発、巨大腫瘍の治療(写真参照)

リンパ節再発のみである場合には、外科的切除を行うことで癌が治る場合があります。特に骨盤内や大動脈周囲のリンパ節再発は、切除可能であれば手術療法が放射線療法や化学療法より有効な場合も多く、安易に薬物療法や放射線療法を選択するべきではありません。腹膜播種などの腹腔内再発も、再発病変が少なければ切除することで治癒、予後の改善が期待できる場合があります。そのような患者様には積極的に手術療法を施行しております。

○がん専門病院等他院で切除不可能と判断されて当院を受診、切除可能であった患者様のCT画像

1.骨盤内再々発の患者様(仙骨合併骨盤内臓全摘術を施行)

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2.膿瘍を伴う小腸、膀胱浸潤を有した直腸癌の患者様(小腸3カ所を含む骨盤内臓全摘術を施行)

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3.下大静脈浸潤を伴う上行結腸癌患者(下大静脈合併切除を施行)

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4.腹腔内を占める肉腫(膀胱、腎臓、小腸合併切除を伴う腫瘍切除術を施行)

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5.腹腔、胸腔内を貫く後腹膜腫瘍(腫瘍摘出術、右腎摘出術、肝部分切除術、横隔膜合併切除術および再建術、胸壁切除術、腹壁切除術、右肺切除術、右肋骨切除術、横隔膜形成術、胸壁形成術、植皮術を施行)

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2.良性疾患の外科治療

a.炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)の外科治療

消化器内科の専門医と密に連絡をとりながら、予定手術でも、必要な場合には緊急手術でも対応しております。多くは腹腔鏡手術となります。

b.大腸憩室の外科治療

出血、穿孔、膿瘍、瘻孔を伴う場合には手術となります。緊急手術は受診した病院での緊急手術になる場合が多いですが、それ以外の場合、例えば結腸膀胱瘻などでは大腸癌の手術よりも難易度が高くなる場合がありますが、当院では40例以上の結腸膀胱瘻の腹腔鏡手術経験を有しており、また膿瘍を経皮的に管を入れて除去(ドレナージ)後患者様も他院から転院して手術を行なっております。

c.家族性大腸ポリポーシスの外科治療

原則は大腸全摘術ですが、直腸に進行癌がなく、ポリープの数が少ない患者様では、機能温存目的に、直腸を温存して残りの大腸を全摘する腹腔鏡下大腸亜全摘術を施行しております。この手術では、術後定期的に残存直腸の検査が必要になります。残せる直腸の長さにもよりますが、排便機能は全摘術より圧倒的に良くなります。

NEW d.鼠径部ヘルニアの治療

鼠径部ヘルニアの治療は原則として手術療法になります。当科では、腹腔鏡によるTAPP法か鼠径部から小切開法で行う鼠径法で手術を行う場合がほとんどですが、両術式にはそれぞれ特徴がありますので、患者様と十分相談の上で手術方法を決定いたします。

NEW e.直腸脱の治療

高齢女性に多い直腸脱は手術しか治療法がありません。歴史的には色々な手術方法が開発されてきましたが、大きく分けて全身麻酔での腹腔鏡手術と腰椎・局所・静脈麻酔での経肛門手術に分かれています。ただし、いずれの術式でも一定の再発率が報告されております。また、高齢の方では全身麻酔での手術が危険な場合もあります。患者様の症状の程度と手術や麻酔に耐えられるかの全身状態を考慮して手術方法を決定いたします。当科では全身麻酔での腹腔鏡手術ではメッシュという腹腔内で溶けない布様なもので直腸を固定する方法を、経肛門手術では肛門から脱出している直腸を切除する方法、直腸を縫い縮める方法、緩くなった肛門を糸で締める方法などで治療しております。

NEW f.腹壁瘢痕ヘルニアの治療

腹部の手術後の傷(創)で、直下の筋肉・筋膜が裂けることで生じる腹壁瘢痕ヘルニアは手術でのみしか治すことはできません。過去の腹部手術の術式、術後の経過、癒着の程度、癒着している臓器、筋肉・筋膜が裂けた穴の大きさ、体型などにより選択する手術術式が異なってきます。当科では可能ならば筋肉・筋膜を縫い直し、腹腔内にメッシュ(腹腔内で溶けない布様なもの)を留置して、再発を防いでおります。ただし、なんらかの理由によりメッシュを留置できない場合には直接筋肉・筋膜を縫い直します。

NEW g.繰り返す腸閉塞の治療

腹部の手術を受けたことがある患者様に多いのですが、術後に腸閉塞を繰り返し、その度ごとに入院治療を要したり、普段から腸閉塞にならない様に食事に十分気を遣っていても腸閉塞になってしまったりする患者様では、日常生活が大きく制限されてしまいます。

過去の手術内容、放射線治療の有無、推測される腸閉塞の原因となる部位の状況などを考慮して、原則として腹腔鏡手術による再手術で、腸閉塞の解除術を施行しております。具体的には癒着剥離術、バイパス術、腸切除術を組み合わせて施行することになります。これまで他院で手術が困難、無理と判断された患者様でも手術により腸閉塞が改善した多数の手術経験を有しております。

その他

その他の疾患でも手術適応がある場合には原則として腹腔鏡手術による低侵襲手術で対応しております。

3.緊急手術

急性虫垂炎、消化管穿孔、腸閉塞などでも積極的に腹腔鏡手術による低侵襲手術を行なっております。

4.超高齢者や心臓や肺機能、併存疾患などにより全身麻酔による手術に危険性を伴う患者様

大学病院として、併存疾患に対応する診療科と密に連携をとりながら治療を進めます。しかし、併存疾患や予備力低下により、どうしてもお元気な若年者と同様の治療が行えない場合があります。そのような場合にはご本人、ご家族と相談しながら、患者様にとって一番良いと考えられる治療を考えます。

 2022年4月よりJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)大腸がんグループの参加施設となりました。